
資料を何度も見直す。メールを送る前に何度も読み返す。趣味を始めようと思っても「下手だったら恥ずかしい」と思って、結局何も始められない。やりたいことはあるのに、「もっと準備ができてから」と言い続けて、気づけば何年も経っている。
完璧主義は、努力家や真面目な人の性格のように見えます。でも本人の中では、100点以外は0点と同じに感じられて、99点でも自分を責めてしまう。小さなミスが、人生全体の失敗のように思えてしまう状態です。
完璧主義には2つの顔がある
心理学の研究では、完璧主義を2つの面に分けて考えるのが一般的になっています。
高い目標に向かう面 自分で決めた基準に向かって努力する。失敗は次に活かす材料として受け止められる。「もっと良くなりたい」という前向きな気持ちが動機になっています。
失敗を恐れる面 人からどう思われるかが気になる。ミスをしたら見捨てられるような怖さがある。「失敗したら嫌われる」という不安が動機になっています。
苦しくなるのは、後者が強いときです。2017年に発表された分析があります。約1万人分のデータをまとめたもので、失敗を恐れる面が強い人ほど先延ばしをしやすく、高い目標に向かう面が強い人はむしろ先延ばしが少ない、という逆向きの結果が出ていました。完璧主義をやめるというより、怖さから来ている部分をゆるめていく、と考えたほうが実情に合っています。
研究者のブレネー・ブラウンも、完璧主義は自分を高めるためのものではなく、恥や批判から身を守るための盾のようなものだと書いています。
完璧主義の根っこにあるもの
「どうして、こんなこともできないの?」 「100点取れたら、ほめてあげるね」
成績がいいときだけほめられた。ミスをしなければ怒られなかった。こういう家で育つと、子どもは「完璧じゃない私には価値がない」というメッセージを受け取ります。期待に応えられないと、怒りや無関心という形の罰が返ってくる。そうして、完璧でいれば批判されない、完璧でいれば愛される、完璧でいれば安全だ、という信念ができあがっていきます。
その奥には、だいたい3つの怖さが隠れています。
一つは、見捨てられる怖さ。不完全な自分を見せたら、誰も愛してくれないのではないか。
二つ目は、何もしていない自分には価値がないという感覚。何かを成し遂げていない自分、役に立っていない自分は、ここにいてはいけない気がしてしまう。
三つ目は、コントロールへのこだわり。子どもの頃に予測できない出来事が多かった人は、自分で管理できることに強くしがみつく傾向があります。完璧さを求めることで、人生を手の中に収めている感覚を得ようとします。
完璧主義が先延ばしを生む仕組み
完璧主義の人ほど物事を後回しにする。意外に思えますが、仕組みを見ると自然なことです。
まず、失敗が怖いので手をつけられません。「失敗=見捨てられる」という思い込みがあると、この怖さはとくに強くなります。
次に、準備が終わりません。完璧な計画を立てようとしてあらゆるリスクを洗い出し続けますが、完璧な計画は存在しないので、準備に時間とエネルギーだけが消えていきます。調べれば調べるほど選択肢が増えて、決められなくなる。「もっと調べなきゃ」のループです。
そして、白か黒かで考えます。100点か0点か、成功か失敗か。99点でも「失敗」に入ってしまいます。
これがつながると、悪い循環になります。完璧じゃないとできない、動けない、締め切り直前に追い込まれる、慌てて出したものの出来が悪い、「やっぱり自分はダメだ」と思う、次もまた動けない。
完璧主義が奪っているもの
いつも100点を目指していると、心と体に負担をかけ続けます。休むことに罪悪感があって、リラックスできない。疲れが抜けないまま走り続けることになります。
人間関係も薄くなりがちです。不完全な自分を見せられないので、誰とも深い関係を築けないまま、孤独を抱えてしまうこともあります。
70点で終わらせる練習
心理学者のバリー・シュワルツは、「最高」を探し続ける人より「十分に良い」で決められる人のほうが、選んだあとの満足度が高いと論じています。100点を目指すと、最後の数十点を取るために、エネルギーの大半を使ってしまいます。その数十点は、本当に必要でしょうか。
70点でも、やるべきことは十分にできています。残りのエネルギーを休むことや新しいことに回したほうが、暮らしには余白が生まれます。余白があるから新しいことに挑戦できるし、人とも深くつながれます。
わざと小さく失敗してみる
心理療法には、怖いものに少しずつ触れて「大丈夫だった」という経験を積み重ねる方法があります。完璧主義にも同じやり方が使えます。
- メールを送る前に、いつもなら5回読み返すところを3回で送る
- 資料を作るとき、タイマーをかけて時間で区切る
- 掃除は「見える範囲だけ」と決めて終わらせる
- SNSに載せる写真を、加工せずにそのまま出す
最初は不安でしかたないと思います。そこで踏みとどまって、そのあと何が起きるか観察してください。たいていは、何も起きません。その「大丈夫だった」を一つずつ積み重ねていきます。
「これで十分」を口ぐせにする
仕上げたときに「まだ完璧じゃない」と思ったら、代わりに「これで十分だな」と言ってみてください。完璧ではない状態を受け入れる練習になります。
完璧主義の声が聞こえてきたら、追い払おうとしなくて大丈夫です。その声は、昔のあなたを守るために生まれたものです。
完璧主義の声:完璧にできないなら、やらないほうがマシだ あなた:心配してくれてありがとう。でも70点でも十分価値があるよ
完璧主義の声:失敗したら、みんなに笑われる あなた:今は大人だから、完璧じゃなくても見捨てられないよ
失敗を「記録」として扱う
失敗は、自分がダメな証拠ではありません。何がうまくいかなかったか、次はどうするか。そこまで書いたら、それはただの記録です。失敗と、あなたの価値は関係ありません。
自分に優しい言葉をかける
心理学者のクリスティン・ネフは、自分を思いやる力(セルフコンパッション)を3つの要素で説明しています。
- 失敗したとき、親友に話しかけるように自分にも優しく声をかける
- 「失敗するのは私だけじゃない。完璧じゃないのは人として当たり前」と思い出す
- 「今、完璧じゃない自分を責めているな」と気づく。気づくだけで、その考えから少し距離が取れる
失敗したとき、自分に「どうしてこんなこともできないの?」と言っていませんか。親友が同じ失敗をしたら、「大丈夫だよ」「次があるよ」と言うはずです。その言葉を、自分にも向けてあげてください。
心の中の親との距離
今でも心のどこかで、親にほめられたいと思っていませんか。親を見返したいと思っていませんか。
大人になった今、あなたの価値を決めるのに、親の評価は必要ありません。「親の期待は親のもの。私の人生は私のもの」と心の中で線を引ければ、それで十分です。
よくある質問
Q. 完璧主義をやめたら、怠け者になりませんか?
なりません。完璧主義と責任感は別のものです。手放すのは失敗を恐れる部分で、努力そのものではありません。100点を目指して動けなくなるより、70点を出して前に進むほうが、長い目で見て結果もついてきます。
Q. 仕事で高い精度を求められます
仕事の高い基準と、自分を責め続けることは別の話です。「このタスクに必要な品質は何点か」を意識して決めると、本当に100点が必要な場面と、70点で十分な場面を分けられるようになります。医療や安全管理のように精度が欠かせない仕事でも、一人で完璧を目指すのではなく、チェックの仕組みやチームで品質を保つという考え方があります。
Q. 先延ばしがひどくて困っています
「70点のものを今日出す」と決めて始めてください。完璧にできないかもしれないから始められない、というのが先延ばしの多くのパターンです。最初の一歩の基準を下げるのが、いちばん効きます。
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- 人の期待に合わせすぎてしまう話は「いい子症候群・過剰適応とは」に書いています
参考








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