
何か失敗したとき、頭の中でどんな言葉が鳴りますか。
なんでこんなこともできないの。また失敗した。私っていつもこう。
その声が自動で出てくる方は、多いと思います。止めようと思っても止まらない。むしろ止めようとしていること自体を責め始める。そういうループに入ることもあります。
この記事では、その声がどこから来ているのかと、どう扱っていけるのかを書きます。
その声は、あなたの声ではないかもしれません
自分を責める言葉には、特徴があります。
言い回しが決まっています。同じフレーズが、状況を問わず出てきます。そして、たいてい二人称的です。自分に向かって言い聞かせるような形をしています。
心理学の枠組みでは、これを内なる批判的な親の声として捉えることがあります。子どもの頃に繰り返し言われた言葉が内面化されて、大人になっても再生され続けている状態です。
言った人はもういないのに、その声だけが残っている。そういうことが起こります。
だから、その言葉が自分の考えだと思う必要はありません。外から入ってきて、居着いたものかもしれない、という見方をしてみてください。
これは親を責めるための話ではありません。誰が悪いかを決めなくても、今その声が鳴っていることは扱えます。
責めても変わらない理由
自分を責めることには、目的があります。次は失敗しないように、という動機です。
厳しくすれば動くはずだ。甘やかしたら怠けてしまう。そう思って自分を追い立ててきた方が多いと思います。
ただ、実際に起きることは逆になりやすいです。
責められた側は、萎縮します。これは他人からでも自分からでも同じです。萎縮すると、判断が鈍り、行動が遅れ、失敗しやすくなります。そしてまた責める材料が増える。
もう一つ、責めることには消耗があります。失敗のダメージに加えて、責められるダメージが二重にかかる。回復に時間がかかるので、次の行動までの間隔が空きます。
厳しくしているのに動けないのではなく、厳しくしているから動けない。そういう構造になっていることがあります。
「優しくしたら甘えてしまう」という心配について
ここが一番よく引っかかるところだと思います。
自分に優しくすることを、基準を下げることだと感じる方が多いです。責めるのをやめたら、何もしなくなるのではないか、と。
区別しておきたいのは、評価と扱いです。
できなかったことをできたことにする必要はありません。事実は事実として置いておきます。変えるのは、その事実を自分にどう伝えるかのほうです。
同じ「今日は進まなかった」でも、なんでできないんだ、と言うのと、今日は進まなかったな、と言うのでは、次に起こることが変わります。前者は動けなくなり、後者は次の日が来ます。
甘やかしではなく、扱い方を変えるだけです。
育て直しという考え方
自分を責める声を、優しい声に置き換えていく。この考え方には、心理療法の中に名前がついています。
再養育、リペアレンティングと呼ばれるものです。
子ども時代に得られなかった養育を、大人になった自分が自分自身に与える、という発想です。私たちの中には、養育する大人の部分と、養育される子どもの部分の両方があるとされます。この大人の部分を意識的に育てて、内側の子どもをケアしていきます。
子どもの頃、あなたを養育する責任があったのは親でした。今は違います。
親がしてくれなかったこと、してくれるべきだったこと。それを今、自分で自分に与えることができます。
無条件の受容、安心感、感情を受け止めてもらうこと、適切な境界線。これらが欠けたまま大人になると、自己評価の低さや人間関係の難しさ、感情の扱いにくさとして出てくることがあります。育て直しは、欠けていたものを今から補っていく作業です。
具体的にやること
声かけを変える
失敗したときの言葉を、意識的に置き換えます。
大丈夫だよ。よく頑張ったね。失敗しても、あなたの価値は変わらないよ。そのままで十分だよ。
最初は照れくさいと思います。嘘くさく感じる方もいます。それでも構いません。長く責めてきた方ほど、優しい言葉は入りにくいです。
入りにくいときは、評価ではなく事実から始めてください。今日はこれができた、という記録として扱うと、抵抗が減ります。
基本的なことを自分に与える
十分に寝る。食べる。体を動かす。心地よい環境を整える。
当たり前のようですが、自分に価値を感じにくい方ほど、ここが後回しになります。そこまでしてもらう価値がない、という感覚が働くからです。
子どもの世話をするとき、私たちは当然のように食事を与え、清潔にします。その子に価値があるからです。同じことを自分にもしてください。
体調が悪いときは休む。疲れたら無理をしない。贅沢ではなく、本来受け取るべきだったケアを今から与えている、と考えてください。
感情に居場所を作る
感情を否定されて育った方は、大人になっても自分の感情を認めにくいことがあります。
悲しいのに悲しくないと言い聞かせる。辛いのに大丈夫だと言う。
そこを、こう変えます。悲しいんだね、悲しんでいいよ。怒っているんだね、怒っていいよ。
感情を感じることと、その感情のままに行動することは別です。怒りを感じることは許可しながら、人を傷つける行動は取らない。この区別も、育て直しの一部です。
断る練習をする
嫌なことは嫌と言っていい。自分を守るために離れていい。すべての要求に応える必要はない。
子どもの頃にそれが許されなかった方には、難しく感じられるかもしれません。わがままだと思われるのでは、嫌われるのでは、という恐れが先に来ます。
良い親は、子どもに「嫌なときは嫌と言っていいよ」と教えます。今、それを自分に教える番です。
できたことを見る
小さくても、認める習慣をつけます。
今日も一日やった。この仕事、よくやった。言いにくいことを言えた。
完璧でなくても努力を認める。子どもに対してならできることを、自分にも向けてください。
うまくいかない日について
一夜で完了するものではありません。
うまくいく日もあれば、古いパターンに戻る日もあります。責める声が返ってくることも、自分のニーズを無視してしまうこともあります。
それでも大丈夫です。気づいたら、また戻ればいい。
完璧な親はいません。良い親も、いつも完璧に子どもを扱えるわけではありません。戻ってこられるかどうかのほうが、続けるうえでは効きます。
この考え方の背景と、注意点
育て直しは、交流分析という心理療法の枠組みから生まれました。エリック・バーンが提唱した、人の心を親・大人・子どもの状態で捉える理論です。
1960年代後半にジャッキー・リー・シフが再養育の手法を始め、1970年代に広がりました。1974年にはミュリエル・ジェームズが、治療者ではなく本人が主体になるセルフ・リペアレンティングを提唱します。この記事で紹介したのは、そちらの考え方です。
ここで、歴史として知っておいてほしいことがあります。
シフが行っていた初期の再養育は、治療者が患者の親役になり、施設で共同生活をさせるものでした。この方法は深刻な問題を起こし、1972年には患者が亡くなる事件が起きています。シフ本人も1978年に国際交流分析協会を辞任しました。
だから今は、本人が主体になる形が主流です。
逆に言えば、「私があなたの新しい親になります」というような関わり方には、慎重になったほうがいいということでもあります。育て直すのは、あなた自身です。支援者は伴走する立場であって、親の代わりではありません。
よくある質問
Q. 自分に優しくすると、甘えてしまいそうで怖いです
A. 実際は逆になりやすいです。責めるほど動けなくなり、優しくするほど立ち直りが早くなります。厳しさで自分を動かしてきた方ほど抵抗を感じますが、そこを越えると疲れ方が変わります。
Q. 優しい言葉をかけても、嘘くさく感じます
A. 長く責めてきた方ほど、そうなります。無理に自分をすごいと思う必要はありません。今日はこれができた、という事実の確認から始めてください。評価ではなく記録として扱うと入りやすくなります。
Q. 親を否定しているようで、抵抗があります
A. 親を責めるための方法ではありません。親にも事情があったことと、あなたが受け取れなかったものがあることは、両方とも本当です。どちらかを否定する必要はありません。
Q. 一人でやるのが難しいです
A. 一人でやらなければならないものではありません。カウンセラーと一緒に進めることもできます。その場合も、主体はあなたです。
Q. どれくらい続ければいいですか
A. 期限のあるものではありません。ただ、途中で「今日は自分を責めなかったな」と気づく日が来ます。そこが最初の変化の目印になります。
最後に
過去は変えられません。これからの自分との関係は変えられます。
頭の中で鳴っている厳しい声は、あなたが作ったものではないかもしれません。それでも、扱い方を決めるのはあなたです。
責めるのをやめても、あなたは怠けません。むしろ、動きやすくなるほうが多いです。
なお、気分の落ち込みが続いている、眠れない、日常生活が回らないといった状態があるなら、自分で対処する前に専門家に相談してください。心療内科、精神科、カウンセリング。育て直しの考え方と、治療を受けることは両立します。
相談先
よりそいホットライン:0120-279-338(24時間・無料)
こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556
※この記事は情報提供を目的としたもので、医学的な診断や治療に代わるものではありません。








コメントを残す