
鏡を見た瞬間に、今すぐ全部切りたい、と思うことがあります。
美容院の予約を取ろうとして、その日のうちに空いている店を探し始めたりする。前からそう思っていたわけではなくて、急に来る。
この衝動には意味があります。ただ、二種類あります。そこを分けないまま切ると、後悔する側に入ることがあるので、先にそこから書きます。
「変えたい」と「消したい」は別のものです
切りたくなったとき、自分にこう聞いてみてください。
新しい自分になりたいのか。今の自分を消したいのか。
前者なら、切っていいです。というより、たいてい良い方向に転びます。
後者のときは、一晩置いてください。
失恋した直後、大きな失敗をした翌日、自分が嫌でたまらない夜。こういうタイミングで髪を切ると、翌週かなりの確率で落ち込みます。変わりたくて切ったのではなく、自分を罰するために切っているからです。鏡を見るたびに、その夜の気持ちを思い出すことになります。
セッションでも、あのとき切らなければよかった、という話は時々出ます。共通しているのは、決めた瞬間に感情が高ぶっていたことです。
一晩経っても切りたいなら、それは衝動ではなく意思です。そうなってから予約を取っても、何も遅くありません。
なぜ、変化したいときに髪なのか
服でも部屋でもなく、髪に手が伸びるのには理由があります。
自分の意思だけで変えられる外見の中で、髪は一番大きく変わる部分だからです。
身長も骨格も顔立ちも、自分では動かせません。体型は時間がかかります。その中で髪だけが、その日のうちに、他人が気づくレベルで変えられます。
人生の中でどうにもならないことが起きたとき、人はコントロールできるものを探します。転職が決まらない、関係が終わった、家族のことで動けない。自分では動かせないものに囲まれたとき、動かせるものが一つでも見つかると、そこに手が伸びます。
髪を切ると気持ちが軽くなるのは、重さが減ったからだけではありません。自分で決めて、自分で変えられた、という感覚が戻ってくるからです。
だから衝動が来たときは、「今、何が自分の手を離れているんだろう」と一度見てみてください。髪の話ではないことが、けっこうあります。
髪と霊力を結びつけてきた文化
髪に特別な意味を置く感覚は、日本だけのものではありません。かなり広い範囲で共通しています。
旧約聖書のサムソン。 士師記に登場するサムソンは、ナジル人として神に聖別された人物で、その誓いの一つが髪を切らないことでした。デリラに髪を切られた瞬間、彼の力は失われます。髪が神との契約そのものとして扱われています。
仏教の剃髪。 出家のときに髪を剃るのは、俗世への執着を断つ象徴とされます。それまでの自分が一度死んで、新しい自分として始まる。通過儀礼としての形です。
古代エジプトの神官。 神に仕える際、清浄を保つために体毛を剃る習慣がありました。
インドのムンダン。 幼児期に行う最初の剃髪の儀式です。前世からのものを断ち切り、新しく始めるという意味づけがされています。
北米先住民の断髪。 部族によって扱いは異なりますが、髪を生命力や祖先とのつながりとみなし、身近な人を亡くしたときに切る文化が複数の部族に見られます。
これだけ離れた地域で、同じような扱いが独立して生まれています。髪を切ることに区切りの意味を持たせるのは、人間にとってかなり自然な発想なのだと思います。
髪にエネルギーが溜まるという考え方
スピリチュアルな説明では、髪は日々の感情や周囲のエネルギーを蓄積するとされます。長いほど古いものを多く含み、切ることで手放せる、という考え方です。
科学的に確かめられたものではありません。ただ、切ったあとに軽くなったと感じる人が多いのは事実です。
この感覚については、二つの説明ができます。
一つは、蓄積されたエネルギーごと手放したという読み方。もう一つは、区切りをつけたことで気持ちが切り替わったという読み方。
どちらを採っても、実際に起きていることは同じです。合うほうを使ってください。
衝動が来やすい時期
環境が変わる前後。 転職、引っ越し、関係の節目。生活の構造が入れ替わるタイミングで来ます。切ることで、前の段階に区切りをつけている形です。
関係が終わったあと。 ここは一番よく来ますが、一番慎重にしたい時期でもあります。前半で書いた「消したい」に入りやすいので、一晩置く判断が効きます。
季節と月の変わり目。 新月や満月、春分・秋分の頃に来る方もいます。新月は始まりに対応させるので、そこに合わせて切るのは、意図を持った区切りとして機能します。
切る前に、一度だけ
美容院の椅子に座って、始まる前に心の中で一つ決めておいてください。
何を置いていくのか、と、何を始めるのか。
言葉にしなくても構いません。剃髪の儀式も、形そのものより意図のほうに意味がありました。切るという動作は同じでも、決めて切ったかどうかで、あとの感じ方がかなり変わります。
よくある質問
Q. 切りたい衝動を我慢するとどうなりますか
A. 特に何も起きません。滞るという説明を見かけますが、我慢したせいで不調になることはないと思います。むしろ、一晩置いても切りたいかどうかで、衝動か意思かを見分けられます。急いで決めなくて大丈夫です。
Q. 切ったあとに後悔しています
A. 髪は伸びます。それだけは確実です。そのうえで、なぜ切ったのかを振り返ってみてください。感情が高ぶった夜に決めていたなら、後悔しているのは髪型ではなく、あの夜の自分のほうかもしれません。そちらのほうが手当てできます。
Q. どのくらいの長さが開運にいいですか
A. 長さで運が決まるという考え方は取っていません。自分が鏡を見て嫌にならない長さが一番です。毎朝目に入るものなので、そこが一番効きます。
Q. 自分で切るのと美容室では違いますか
A. 衝動で切りたくなっているときは、美容室にしてください。予約を取る、行く、座る、という手順が入るぶん、間に時間ができます。その時間が判断を助けます。
Q. 何度も切りたくなります
A. 短い周期で繰り返し切りたくなる場合、髪ではなく生活のほうが動いていないことがあります。変えたい対象が別にあって、髪だけが手の届く場所にある状態です。何が動かせないままなのか、そこを見てみてください。
まとめ
髪を切りたい衝動は、変化の準備ができたサインであることが多いです。
ただ、全部がそうではありません。動揺しているときの断髪は、あとで自分を痛めます。
見分け方は一つだけです。新しい自分になりたいのか、今の自分を消したいのか。
前者なら、予約を取ってください。後者なら、一晩だけ待ってください。朝になってもまだ切りたければ、それはもう衝動ではありません。







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