「なぜ私はこんなに疲れやすいんだろう?」「人と会った後、どっと疲れてしまう」「普通のことをしているだけなのに、なぜか消耗してしまう」
アダルトチルドレンの多くが抱える「異常な疲れやすさ」。これは怠けているわけでも、体力がないわけでもありません。実は、機能不全家族で身につけた生存戦略が、大人になってからも続いているために起こる現象なのです。
今回は、ACの疲れやすさの正体を明らかにし、エネルギーを回復させる具体的な方法をお伝えします。
なぜACは疲れやすいのか?
常に「警戒モード」で生きている
アダルトチルドレンは、子どもの頃から常に周囲の状況を監視し、危険を察知することで身を守ってきました。大人になってからも、この「警戒モード」が続いているため、無意識のうちに大量のエネルギーを消費してしまうのです。
たとえば、カフェで友人と話していても、隣の席の人の会話が気になったり、店員さんの表情を観察したり、友人の機嫌の変化を敏感にキャッチしたり。本来リラックスできるはずの時間でも、脳は休むことなく働き続けています。
「演じる疲れ」が蓄積している
機能不全家族で育ったACは、「本当の自分」を出すことが危険だと学びました。そのため、常に「相手に合わせた自分」を演じ続けています。この「演技」は想像以上にエネルギーを消耗します。
朝から晩まで、職場では「できる人」、友人の前では「楽しい人」、家族の前では「良い子」を演じ続ける。まるで一日中舞台に立っているような状態で、疲れないわけがありません。
感情を抑圧するエネルギー
ACは自分の本当の感情を感じることを避ける傾向があります。怒り、悲しみ、不安、嫉妬といったネガティブな感情を心の奥底に押し込めるために、大量のエネルギーを使っています。
感情を抑圧するということは、心の中で常に「感情の蓋」を押さえつけているような状態。この作業が24時間続いているため、慢性的な疲労を感じてしまうのです。
タイプ別:疲れ方の特徴
ヒーロータイプの疲れ方
ヒーロータイプは「責任を背負いすぎる疲れ」が特徴的です。自分のことだけでなく、家族、友人、同僚の問題まで自分の責任として抱え込んでしまいます。他人の機嫌や状況を常に気にかけ、何かあれば「自分がなんとかしなければ」と考えてしまいます。
また、完璧にこなそうとするあまり、必要以上に時間とエネルギーをかけてしまいます。「70点で十分」なことでも、100点を目指してしまい、結果として燃え尽きてしまうのです。
スケープゴートタイプの疲れ方
スケープゴートタイプは「感情の激しい変動による疲れ」が特徴です。怒り、悲しみ、不安といった感情を強く感じやすく、その感情の波に翻弄されて疲れ果ててしまいます。
また、「誤解されている」「理解してもらえない」という孤独感を常に抱えており、この心理的な重荷が疲労感を増大させています。人との関係で摩擦が生じやすく、その都度大きなエネルギーを消耗してしまいます。
ロスト・チャイルドタイプの疲れ方
ロスト・チャイルドタイプは「存在を消すエネルギー」による疲れが特徴です。目立たないよう、迷惑をかけないよう、常に自分を小さくしていることで、多大なエネルギーを消費しています。
また、他人の感情やニーズを敏感に察知しようとするため、常にアンテナを張り巡らせている状態です。この「察する疲れ」は想像以上に大きな負担となっています。
マスコットタイプの疲れ方
マスコットタイプは「明るく振る舞う疲れ」が特徴的です。本当は落ち込んでいても、不安でも、いつも笑顔で明るくいなければならないというプレッシャーを感じています。
特に、場の空気が重くなったときに「なんとかしなければ」と感じ、一人で場を盛り上げようとしてしまいます。この「ムードメーカー」の役割は、想像以上にエネルギーを消耗します。
疲れのサインを見逃さない
身体に現れるサイン
ACの疲れは、身体にさまざまなサインとして現れます。朝起きても疲れが取れない、肩こりや首こりが慢性的、頭痛が頻繁に起こる、胃腸の調子が悪い、風邪をひきやすい、眠りが浅い、食欲がない、または食べ過ぎてしまう。
これらは単なる体調不良ではなく、心の疲れが身体に現れている可能性があります。
心に現れるサイン
心理的な疲れのサインには以下のようなものがあります。些細なことでイライラする、集中力が続かない、決断ができない、人と会うのが億劫、一人になりたくなる、何をしても楽しくない、将来への不安が強くなる、自分を責める気持ちが強くなる。
これらのサインが複数当てはまる場合は、心の疲れが蓄積している可能性があります。
エネルギーを回復させる方法
基本の回復法:まず休息を取る
疲れを感じたら、まずは基本的な休息を取ることが大切です。十分な睡眠を確保し、栄養バランスの良い食事を心がけ、適度な運動を取り入れましょう。
特に大切なのは「質の良い睡眠」です。寝る前のスマホを控え、部屋を暗くし、リラックスできる環境を整えます。カフェインの摂取は午後3時以降は避け、就寝の2時間前には食事を済ませるようにしましょう。
「演じる時間」を減らす
疲れの大きな原因である「演技」を減らすことが重要です。一日の中で、少しでも「ありのままの自分」でいられる時間を作りましょう。
家に帰ったら、まず「お疲れさま」と自分に声をかけ、緊張を緩めます。好きな服に着替え、好きな音楽を聴き、好きなことをする時間を作ります。誰にも気を遣わず、自分のペースで過ごせる時間を大切にしてください。
境界線を引いてエネルギーを守る
他人の問題を自分の問題として抱え込まないよう、適切な境界線を引くことが大切です。「それはあなたの問題ですね」と心の中で区別し、無理に解決しようとしないことです。
また、自分のエネルギーレベルに合わせて予定を調整することも重要です。疲れているときは無理をせず、予定をキャンセルしたり、延期したりする勇気を持ちましょう。
具体的なエネルギー回復テクニック
5分間リセット法
疲れを感じたとき、5分間でできる簡単なリセット法を試してみてください:
1分目:深呼吸 ゆっくりと4秒間鼻から息を吸い、6秒間口から吐きます。これを3回繰り返します。
2-3分目:身体をゆるめる 肩を上げて力を入れ、ストンと落とします。首をゆっくり回し、手首や足首をぐるぐる回します。
4-5分目:心を整える 今日頑張った自分を褒め、「お疲れさま」と声をかけます。明日のことは考えず、今この瞬間に集中します。
エネルギーチャージ法
エネルギーを積極的にチャージする方法もあります
自然に触れる 公園を散歩したり、植物を眺めたり、空を見上げたりします。自然のエネルギーは、疲れた心を癒してくれます。
好きなことに没頭する 読書、音楽、映画、手芸、料理など、自分が純粋に楽しめることに時間を使います。「やらなければならない」ことではなく、「やりたいこと」を優先します。
信頼できる人と過ごす 演技をしなくても受け入れてくれる人との時間は、エネルギーを奪うどころか、与えてくれます。ただし、そういう人が見つからない場合は、無理に人と会う必要はありません。
セルフコンパッション(自分への優しさ)
自分を責めることをやめ、優しい言葉をかけることも重要です。疲れている自分を責めるのではなく、「よく頑張っているね」「休んでもいいんだよ」と声をかけてあげてください。
友人が疲れているときにかける言葉を、自分にもかけてあげるのです。自分に対しても、他人に対するのと同じように優しくなることを心がけましょう。
疲れにくい生活習慣
朝のルーティンを作る
朝の過ごし方は、一日のエネルギーレベルに大きく影響します。慌ただしく起きるのではなく、ゆとりを持って起床し、自分なりの朝のルーティンを作ってみてください。
コーヒーをゆっくり飲む、好きな音楽を聴く、ストレッチをする、日記を書くなど、自分が心地よく感じることを取り入れます。朝の数分間でも、自分のための時間を作ることが大切です。
「No」と言う練習
エネルギーを守るためには、適切に「No」と言えるようになることが重要です。最初は小さなことから始めてみましょう。
「今日はちょっと疲れているので、また今度にしませんか?」「申し訳ないのですが、今回はお手伝いできません」といった具合に、相手を傷つけない方法で断る練習をしてみてください。
エネルギーを奪う人・環境を避ける
自分のエネルギーを大量に消耗させる人や環境があることを認識し、可能な限り避けるようにしましょう。
いつも愚痴ばかり言う人、批判的な人、感情的に不安定な人、自分の価値観を押し付けてくる人との時間は制限します。また、騒がしい場所、競争の激しい環境、プレッシャーの強い状況も、必要以上に長時間いることは避けましょう。
今日からできる実践ワーク
ワーク1:疲れのパターンを知る
一週間、以下の項目を記録してみましょう:
疲れを感じた時間と場面 いつ、どこで、誰といるときに疲れを感じるかをメモします。
疲れの度合い 1(少し疲れた)から10(ものすごく疲れた)で評価します。
その日の出来事 特別なことがあったか、いつもと違うことをしたかを記録します。
一週間後に振り返ると、自分の疲れのパターンが見えてきます。
ワーク2:エネルギーを与えてくれるものリスト
以下のカテゴリーで、自分にエネルギーを与えてくれるものを5つずつ書き出してみましょう:
活動(すること) 散歩、読書、音楽を聴く、料理、映画鑑賞など
人(会う人) 家族、友人、ペット、信頼できる同僚など
場所(いる場所) 自分の部屋、公園、図書館、お気に入りのカフェなど
時間(過ごし方) 朝のコーヒータイム、お風呂の時間、就寝前の読書など
疲れを感じたときは、このリストから選んで実践してみてください。
ワーク3:一日一つの「自分優先」
毎日、一つだけでも「自分を優先する」選択をしてみましょう:
- 疲れているときは無理に予定を入れない
- 好きな食べ物を選ぶ
- 気分に合わせて服を選ぶ
- 嫌な話題から距離を置く
- 自分のペースで歩く
小さなことから始めて、自分を大切にする習慣を作っていきましょう。
よくある質問
Q: 疲れやすいのは甘えでしょうか?
A: 決して甘えではありません。ACの疲れやすさには、子どもの頃から続いている心理的・生理的な理由があります。むしろ、これまでよく頑張って来られたと自分を褒めてあげてください。疲れを感じることは、身体と心からの大切なメッセージです。
Q: 人と会うとどうしても疲れてしまいます
A: これは多くのACが経験することです。人といるときに「演技」をしていたり、相手の感情を敏感に察知しすぎたりするためです。人と会った後は、意識的に一人の時間を作り、リセットする習慣を作ってみてください。また、ありのままの自分を受け入れてくれる人との時間を増やすことも大切です。
Q: 疲れていても休めません。どうすればいいですか?
A: 「休んではいけない」という思い込みがあるかもしれません。まずは5分間だけでも、意識的に休む時間を作ってみてください。徐々に休息の時間を延ばしていき、休むことに慣れていきましょう。休息は怠けることではなく、次に頑張るためのエネルギーチャージだと考えてみてください。
まとめ:疲れやすさと上手に付き合う
ACの疲れやすさは、長年身につけた生存戦略の結果です。一朝一夕に変わるものではありませんが、その正体を理解し、適切な対処法を身につけることで、確実に楽になっていきます。
大切なのは、疲れている自分を責めないことです。あなたが疲れやすいのは、これまで人一倍気を遣い、頑張って生きてきた証拠でもあります。
今日からできることを一つずつ実践し、自分のエネルギーを大切に扱ってあげてください。あなたには、疲れから回復し、より楽に生きる権利があります。
完璧を目指す必要はありません。少しずつ、自分に優しくなることから始めてみましょう。
シリーズ記事
第1回:アダルトチルドレン(AC)とは?その特徴と4つのタイプ
第2回:ACからの回復へ:クラウディア・ブラックの4つのプロセス
第3回:生きづらさの正体は脳にあった?ポリヴェーガル理論で心を癒やす方法
第4回:傷ついた『小さなわたし』を癒やす、インナーチャイルド・ワーク入門
第5回:ACの恋愛パターンを克服する。共依存から自立した愛へ
第6回:ACの「疲れやすさ」の正体と回復法
第7回:ACのための「No」の言い方レッスン
第8回:ACの「完璧主義」をやめて楽になる方法
第9回:ACの友人関係:本当の友達の作り方
第10回:ACの家族関係を見直す:親との適切な距離感
第11回:ACの感情整理術:モヤモヤを言葉にする方法
第12回:ACの職場での生きづらさを解消する方法
第13回:ACの「気にしすぎ」をやめる方法
第14回:ACの歪んだ承認欲求の満たし方と健全な自己価値の育て方
あなたの中にいる小さなわたしが、愛と平和に包まれますように。
このシリーズがあなたの回復の旅路において、少しでもお役に立てれば幸いです。



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